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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2795号 判決

原告

斉藤章二郎

ほか一名

被告

来栖潔

ほか二名

主文

一  被告らは連帯して、原告斉藤章二郎に対して金三一万八、九〇〇円及びこれに対する昭和四九年三月五日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告日動火災海上保険株式会社に対して金七九万七、七〇〇円及びこれに対する昭和四九年五月二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告ら)

一  被告らは連帯して、原告斉藤章二郎に対して金五五万三、九〇〇円及びこれに対する昭和四九年三月五日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告日動火災海上保険株式会社に対して金八〇万七、七〇〇円及びこれに対する昭和四九年五月二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二主張

(原告ら)

「請求原因」

一  事故の発生

昭和四九年三月五日午前六時四五分頃、東京都港区六本木六丁目二番地の首都高速道路三号下り追越車線上を、原告斉藤が、自己所有の普通乗用自動車(足立五六す二三八二、以下「原告車」という)を運転中、次のごとき事故が発生した。

この時先頭に訴外木村耕作運転車両(練馬四四あ七一六九、以下「木村車」という)、次に訴外赤沢吉郎運転車両(品川五五い五一六一、以下「赤沢車」という)、その次が原告車、その後に被告上原運転車両(品川一一あ六四三三、以下「被告上原車」という)、の四台の車両が縦列に進行していたところ、先頭の木村車の直前に左側車線を同一方向に向つて進行中の被告来栖運転車両(相模五五や二二一二、以下「被告来栖車」という)が割込み進入してきた。そのため木村車は衝突を回避すべく急制動をかけ右方向に転把して右側壁に接触して停車、引続き後の赤沢車が急停車し、その後方約三メートルの所に原告車は停車した。

しかるにその直後原告車に、被告上原車が追突し、そのため原告車は赤沢車にも追突させられ、よつて原告車の前部と後部が大破した。

二  責任原因

本件事故は、被告来栖の、車線変更するに際し、進入車線を進行中の他車両との車間距離を充分確認せず無利な割込みをした過失及び被告上原の高速道路を進行するに際し、前車との車間距離を充分にとらず、且つ前方に対する注意を怠つた過失によつて発生したものである。

よつて、右両被告は、民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

次に被告出版輸送株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告上原の使用者であり、且つ当時同被告は被告会社の輸送業務を執行中であつたから、民法七一五条により同様の責任を負う。

三  損害

本件事故による原告斉藤の損害は次のとおりである。

(イ) 修理代 七八万七、九〇〇円

(ロ) 見積代 二万円

(ハ) 格落損害 一五万八、七〇〇円

(ニ) 代車料(七九日分) 三九万五、〇〇〇円

合計 一三六万一、六〇〇円

四  保険代位

原告日動火災海上保険株式会社(以下「原告会社」という。)は、原告斉藤との間に保険期間を昭和四八年三月一四日から同四九年三月一四日までとする車両保険契約を締結していたので(証券番号〇九九八四二四番)、右原告斉藤の損害に対して保険金八〇万七、七〇〇円を支払つた。

よつて原告会社は商法六六二条により、原告斉藤からその支払限度において、被告らに対する不法行為に基く損害賠償請求権を代位取得した。

五  結論

よつて被告らに対し、原告斉藤は保険による填補を受けていない五五万三、九〇〇円及びこれに対する事故当日の昭和四九年三月五日以降支払済に至るまで、被告会社は八〇万七、七〇〇円及びこれに対する保険金支払日の翌日たる昭和四九年五月二日以降支払済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める次第である。

(被告来栖)

請求原因一項は認める。但し後記のとおり被告来栖の過失によつて生じた事故は訴外木村この間だけであつて、原告斉藤の事故は被告上原の追突事故によるものである。

同二項中、被告来栖が無理な割込みをしたことは認めるが、原告斉藤に対しては何らの原因を与えていないから賠償義務はない。

同三、四項は不知。

「被告来栖の主張」

原告車に対する追突事故は、被告上原の前方不注視、車間距離不保持の一方的過失に起因するもので、被告来栖の割込みによる過失は何らの原因も与えていない。

すなわち木村車の後続車たる赤沢車及びその後続車たる原告車とも時速七〇ないし八〇キロで前車との車間距離を三〇ないし四〇メートルおいて進行していたところ、いずれも前方での事故を目撃し、急制動の措置をとり、いずれも前車と衝突することなくその一ないし三メートル手前で停止している。そして原告車が停止した直後被告上原車が後方から衝突したものである。被告上原は、時速八〇キロ位で原告車との車間距離を一四ないし一五メートルしかおかず進行していたため、前車が急停車しても到底安全に停止しうる車間距離ではなかつたこと、これに加え被告上原車は三トン貨物車で積荷を満載していて制動も充分きかず、よつて原告車に追突してしまつたものである。

以上要するに本件事故は被告上原の全面的過失によるもので、被告来栖が責任を負ういわれはない。原告らは事故後本訴に至るまでの二年間被告来栖に対しては何らの請求をしなかつたこともこの間の事情をものがたつている。

「被告上原、被告会社」

請求原因一項中、事故発生の日時、場所関係車両の進行順序、被告来栖車が割込みをしたこと、及び程度はともかく本件事故により破損したことは認める。赤沢車、原告車が急停車したこと、その時原告車は赤沢車との間に三メートルの距離があつたこと、被告上原車の追突により原告車が赤沢車に追突したこと、はいずれも否認する。原告斉藤が原告車を所有しているこの点は不知。後に述べるとおり赤沢車、原告車は、被告来栖車の割込みを見て衝突を避けるためいつせいに左に転把し、その回避行動中に被告上原車が原告車に衝突したものである。

同二項中、被告上原が前方注意を怠つた点は否認する。車間距離不保持の点は結果から見て認めざるを得ないが、被告来栖、原告斉藤についての後記のごとき事情を考慮すべきである。次に被告上原が当時被告会社の従業員としてその業務に従事していたことは認める。その余の点は争う。

同三項、四項は不知、なお原告斉藤は代車料として七九日間の料金を請求しているが、同原告は原告車を営業用ではなく、レジヤー等自家用に使用していたことが窺われる。そうすると代車の必要があつたか否かは疑問であり、その期間も不相当である。せいぜい一五日程度が相当である。

「被告上原、被告会社の主張」

一  原告らは、原告車が赤沢車の後方三メートルの地点で停止したと主張し、被告来栖も責任を免れるため同旨の主張をしている。

しかし前記のとおり赤沢車、原告車は、被告来栖車の割込みを見て衝突を避けるためいつせいに左に転把し、その左に回転中の原告車の後方、換言すればその左後方に被告上原が衝突し、その衝撃によつて原告車はさらに左にまわり込むように回転しながら側壁に衝突し、右前方に大きな損傷を蒙るに至つたものである。このことは原告車の著しい破損部位が左後方と右前方であることから明らかである。

二  そうすると本件事故は被告来栖車の割込みを見て後続車が急停止することによつて回避し得たものではない。

すなわち事故現場付近の道路上を進行していた車両は本件関係車両を含めてほぼ同一の時速約八〇キロで、同一の車間距離をもつて進行していたのであり、しかもこのことを被告来栖においては認識していたか、少くとも認識可能だつたのである。結局被告来栖が本件のごとき割込みを行えばその後の結果は全て必然だつたわけである。

三  本件事故については原告斉藤には重大な過失がある。右のとおり原告車は時速八〇キロで進行していたのであるが、原告斉藤が交通法規を遵守して制限速度の時速六〇キロで進行していたならばその直後を進行中の被告上原車もこの制限速度以上の速度をもつて進行することは不可能だつた筈である。また充分な車間距離をもつて進行していたならば原告車らにおいて左に急転把する必要もなかつたわけで、されば被告上原車も左に転把する等適切な回避措置をとり得たのである。被告上原は一瞬、左側車線に乗り入れて事故を回避しようと考えたが、原告車が左に転把してきたので制動をかけながら直進したのである。かりに原告の主張に沿うとしても、赤沢車との追突は回避し得たと考えられる。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因一、二項中被告来栖は原告車が原告斉藤の所有であること及び被告上原車の追突によつて原告車が損傷を受けたことを認め、被告来栖車が木村車の前方へ無理な割込みをした過失と被告上原車が原告車に追突したこととの間に法的な因果関係があることを争つている。

他方被告上原、被告会社ら主張の日時、場所で被告来栖の割込みによつて原告車、被告上原車を含む一団の車両の間に事故が生じ、原告車が破損したこと、当時被告上原が被告会社の業務に従事中であつたことは認めるものの、原告車が原告斉藤の所有であること、原告車の破損の原因が被告上原車にあることを争つている。しかるところ原告斉藤章二郎本人尋問の結果により原告車が原告斉藤の所有であることは認めることができる。

二  そこで原告車破損についての被告らの責任を検討することになるが、成立につき争いのない乙第一ないし第一二号証、原告斉藤章二郎本人尋問の結果により成立の認められる甲第三号証の一ないし七、証人赤沢吉郎の証言、原告斉藤章二郎本人尋問、被告来栖潔本人尋問、同上原厚士本人尋問の各結果を総合すると事故現場の状況、事故直前の関係車両の動き、及び原告車の損傷の模様は次のとおりであることが認められる。

(一)  本件事故現場は幅員約七・六メートル、二車線となつている首都高速三号下り車線上で付近は制限速度毎時六〇キロで直線で見透しの良い所である。

そして事故直前進行方向左側車線(以下単に「左側車線」「右側車線」という)を被告来栖車が進行し、これと併行して右側車線を木村車が進行していた。そして木村車の後を一団の関係車両が原告主張どおりの順位で走行していた。この時のこれら車両の速度はいずれもほぼ時速八〇キロであつた。

(二)  本件事故現場手前で被告来栖は自車線前方で車が混み合つてきたのを認め、木村車とその前車との間が開いたのを機会に右折合図をしながら右側車線に進入した。ところが被告来栖車の車線変更が急で、且つ車間距離が不充分だつたため木村車はこれに対応することができず、被告来栖車の右後部が木村車の左前部に衝突した。

木村車は衝突の反動で右側の中央分離帯と接触したが、急制動をかけたので被告来栖車と衝突してから約二六メートル走行して右側車線上に横向きに停止した。

(三)  この前方の衝突を見て、後続車たる赤沢車、原告車、被告上原車とも急制動の措置をとつた。しかし態様の点はともかく、後続車についても事故が発生し、各車両は損傷を受けた。

(四)  事故約二週間後の昭和四九年三月二〇日頃自動車修理工場で撮影した原告車の写真(甲第三号証の一ないし七)によれば、右事故による原告車の破損箇所は次のとおりである。

(イ)  左後部上角が破損しているがそれは地金が見え、衝突痕と認められる。そして後部左車輪の後付近で左フエンダーが縦に凹んでいて、そこから後にかけて左サイドモールがはがれて下つている。

(ロ)  右後部上角にも少し凹損があり、右後部車輪の後側から後部にかけての右フエンダーが凹んでいる。

(ハ)  後部トランクの蓋が閉らず開いたままである。

(ニ)  前部バンバー右端、及び右サイドミラーがいずれも下にねじ曲り、右前輪の前付近の右フエンダーが大きく凹損している。

(ホ)  左サイドミラー付近の右フエンダーが少し凹んでいる。

三  以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。そして右事実、特に原告車の破損の模様と前掲各証拠(但し被告上原厚士本人尋問の結果中後記措信しない部分は除く)を総合すると原告車の損傷は次のごとき事故によつて生じたものと認められる。

(一)  被告来栖車の割込みによつて同車の右後部が木村車の左前部と衝突する事故が生じた時、赤沢車は木村車の後方四〇ないし五〇メートルの所を、さらにその後方三〇ないし四〇メートルの所を原告車が走行していたのであるが、いずれも前車が急制動の措置をとつたのを見て直ちに急制動の措置をとつた。

そして赤沢車は横向きに停車している木村車のすぐ手前で停車し、さらにそのすぐ後方で原告車が車首を左に向けて停車しようとしていた。

その瞬間後方から被告上原車が原告車の左後部に追突してこれを左前方に押し出したため、原告車は右前部を赤沢車に追突させたうえ、赤沢車の左前方に押し出された。原告車に追突された赤沢車は前に押し出されて木村車に追突した。

(二)  被告上原車(三トン貨物車)は運転席が高く前方が見透せるのであるが、事故当時荷物を満載していて長い制動距離を要したのに原告車の後方一四ないし一五メートルの所を走行していて車間距離が充分でなかつたのと、被告上原において木村車のブレーキランプが付いたのを当初事故によるものと思わなかつたためこれへの対処が遅れて右のごとき三重衝突を生ずるに至つたものである。

四  本件の事故態様は右認定のとおりと判断されるのであるが、被告上原は、事故当時赤沢車、原告車、被告上原車とも前車と一四ないし一五メートルの車間距離しかおかずに走行していたのであり、赤沢車、原告車とも木村車の事故を見て前車との車間距離がないことから左に転把してブレーキをかけたが間に合わず左側壁に衝突したもので、その左に転回中に被告上原車が原告車、赤沢車の後部に追突したものである旨供述し、且つ同被告は事故の翌日ほぼ同旨の事故報告書(丙第一号証)被告会社に提出している。

しかし、同被告は、右報告書には原告車の右後部に衝突した旨記載しておきながら、公判廷で前記甲第三号証の一ないし七の原告車の写真を見せられるや転回中に左後部に追突した旨その供述を改めるなどその供述に一貫性がない。のみならず前認定のとおり原告車は左後部に追突された痕があり、右前部に大きな破損を蒙つているが、そのほか右後部フエンダー等に少なからぬ凹損があるところ、この点では被告上原の供述する右事故態様によつて生じる損傷とは合致しない。

以上の次第で被告上原の右供述は措信できないところである。

五  右認定の事故態様からすれば、原告車の損傷が主に被告上原の車間距離不保持、前方不注視の過失によつて生じたことは明らかである。よつて被告上原は不法行為者として、被告会社はその使用者として本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償すべき責任がある。

なお被告上原、被告会社は、原告斉藤においても制限速度違反、車間距離不保持の過失があり、それも原告車の損傷の原因となつているから原告らの損害について過失相殺すべきである旨主張する。しかし、前認定のとおり原告斉藤は前々車たる木村車に事故があつたのを見て直ちに急制動の措置をとつたので、赤沢車の直前で停止しようとしていたところ被告上原車に追突されたのである。かかる事実関係からすれば、原告斉藤に過失があつたとは認め難く、右主張は採用できないところである。

また証人赤沢吉郎は、二回衝突による衝激を受けた旨供述するが、原告車の右前部、右後部に損傷があることからそれは被告上原車に追突されて原告車が左前方に進出する際、右前部と右後部を原告車に衝突させたものと認められるので右判断を左右するものではない。

六  次に被告来栖の責任について検討する。前記のとおり被告上原車の原告車への追突は被告上原の車間距離不保持前方不注視の過失によるものであるが、被告来栖の割込みによつて生じた事故が最初の原因である。

被告来栖は、被告上原の過失が追突の原因になつていて、被告来栖車の割込みと被告上原の追突との間に法的な因果関係はないと主張するが、毎時八〇キロ位で走行している四台の一団の車両の先頭に急な割込みをして接触事故を起こし、先頭車を走行車線を遮ぎるような形で停止させた場合に本件のごとき玉突き事故が生じることは容易に予見できるところである。このことは被告上原車が原告車に追突したのは、赤沢車、原告車ともその各前車の直前で停車もしくは停車しようとしていた時であることからも明らかである。

よつて被告来栖車と被告上原車の原告車への追突との間には、被告上原の過失にもかかわらず法的な因果関係があるというべきである。

七  そこで原告らの損害について検討するに、原告車は本件事故により前認定のごとき損傷を蒙つたものであるところ、成立につき争いのない甲第五号証、原告斉藤章二郎本人尋問の結果により成立の認められる甲第二号証、同第四号証、同第六号証、同本人尋問の結果を総合すると、原告斉藤は本件事故の直前に原告車を購入したところで、事故まで約五〇キロしか走行していなかつたこと、そして同原告は事故の翌日たる三月六日に高橋自動車株式会社を介して東京トヨペツト株式会社に原告車の修理見積を依頼し、同月一〇日付で鑑定書が作成されたのであるが、それによれば、事故時の原告車の時価は一四〇万円と算定されるところ、本件事故による損傷の修理費用は七八万七、九〇〇円を要するとのことであつたこと、なおこの修理見積費用二万円は、原告斉藤が高橋自動車株式会社を介して三月二三日に東京トヨペツト株式会社に支払つたこと、他方原告斉藤は原告会社と原告車につき原告ら主張どおりの車両保険契約を締結していて、原告車の損害の保険金として七九万七、七〇〇円を昭和四九年五月一日に原告会社から受領したこと、原告斉藤は右のとおり原告車の修理費が右のごとく高額なことから、これを修理することはせず新車を購入しようと考えていたのであるが、手許に資金がなかつたため右保険金を受領した後、これをもとに原告車を一二万円で下取りに出して事故後約八〇日を経過した五月末頃に新車を購入したこと、同原告は寿し屋を営んでおり、原告車は釣などに客を接待するのに使用するほか、偶に出前にも利用していたこと、そして新車を購入するまでの間は高橋自動車から代車を借受けてこれらの用を足していたが、代車料は約八〇日分で四〇万円近くになつたこと、の各事実が認められる。

八  右事実を前提として原告斉藤が被告らに賠償を求め得る損害を算出すると次のとおりとなる。

(イ)  修理代 七八万七、九〇〇円

(ロ)  見積代 二万円

(ハ)  格落分 一五万八、七〇〇円

原告車の時価、新車であつたこと、及び修理に要する費用等を勘案すると、仮に原告車を修理しても、原告ら主張の右金額程度の格落ちが生ずることは推認できるところである。そうするとこの格落損害は本件事故による損害と認めるのを相当とする。

(ニ)  代車料 一五万円

原告斉藤が原告車を使用していた状況に鑑み、同原告が代車を必要としたことは認められるが、被告らに賠償を求め得るのは通常の修理期間たる一ケ月の代車料たる右金額を相当とする。

九  そうすると原告斉藤は被告らに右合計一一一万六、六〇〇円の賠償を請求できるところ、内七九万七、七〇〇円については車両保険から填補を受けたので、残りは三一万八、九〇〇円となり、また原告会社は右保険金を原告斉藤に支払つたことにより、商法六六二条によりこの限度で原告斉藤の被告らに対する損害賠償請求権を代位取得した。

よつて被告らは連帯して原告斉藤に対して三一万八、九〇〇円及びこれに対する事故当日の昭和四九年三月五日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、また原告会社に対して七九万七、七〇〇円及びこれに対する保険金支払の翌日たる昭和四九年五月二日以降支払済みに至るまで同じく年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。そこで原告両名の本訴請求をこの限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部崇明)

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